サーバーのログ1行に感じる命の重み。数万人のドクターが助け合うサービスで実現したい世界

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JMDCでは、医療系サービスを提供するさまざまな企業がグループに参画しています。今回ご紹介するアンター(Antaa)株式会社も2021年8月にグループ会社に仲間入りしました。

「医師がつながる場をつくりたい」と、整形外科医である中山さんが立ち上げた医師間のSNS型プラットフォームは、着実にユーザー数を伸ばし、医師が知見をオープンにシェアする文化を作ってきました。

今回、CEOの中山さんと、開発マネージャーの田平さんに創業時からこれまでを振り返ってもらい、Antaaの事業やサービスがどのように成長してきたのかを伺いました。

プロフィール
中山 俊(なかやま しゅん)アンター株式会社 代表取締役/翠明会山王病院 整形外科医師

鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、東京医療センターで初期研修。2016年にアンター株式会社を創業。「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」をミッションに医師同士がつながる場やサービスを運営。Antaaサービスの登録ユーザー数は3万人を突破。趣味は、温泉・サウナ。

田平 章人(たびら あきと)アンター株式会社 開発マネージャー
大学院時代に複数のベンチャー企業でアプリ開発を経験。2012年、ヤフー株式会社に新卒入社し、決済やID、ヘルスケアのシステム開発に従事。2015年、中高の同級生だった中山医師から相談を受け、Antaaのサービス開発に協力。2021年1月、開発マネージャーとして正式にジョイン。

高校の同級生だった2人が再会して、サービス作りが始まる

ーーAntaaは、どんなサービスを提供しているのでしょうか?

中山:「医療をつなぎ、命をつなぐ」というミッションのもと、医師同士の質問解決プラットフォーム「Antaa QA」、医師の臨床知識をスライドで共有する「Antaa Slide」、オンライン動画サービス「Antaa Channel」を運営しています。3つのサービス合わせて、医師・医学生3万ユーザーが登録しています。

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ーー創業の経緯について教えてください。

中山:整形外科医として地方の病院で勤務していたとき、私自身の知識だけでは判断が難しい手術に遭遇したことがありました。そのとき、他の先生がオンラインで知見を共有してくれて助けられたんです。それが「医師同士で情報を共有できる場を作れないか」と思ったきっかけでした。

それまでも医療現場にいると判断に迷う場面が少なからずあって、とても個人で自己研鑽しているだけではカバーしきれないと思っていました。きっとこれは自分だけの課題ではない。特に夜間対応や、医師の少ない地方の病院などで困っている先生方がいるはず。その方たちが使える知識をシェアできたら、目の前の患者さんを救うことに貢献できるかもしれない、と考えたんです。

そこで、Facebookを見て、ヤフーでエンジニアをやっていることがわかった田平さんにメッセージを送りました。田平さんは中高時代の同級生ですが、話したのは高校卒業以来10年ぶりでした。

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CEO中山さん

田平:あの時は中山さんから突然メッセージが来て驚きました。「Webで医師が情報を共有できるようなサービスを作ることはできるか」と聞かれて「作れると思う」と返事しました。

そこから開発に協力するように。エンジニアとして、社会的意義のあるアイデアを形にしていくお手伝いができるのは、うれしかったですね。

中山:初めてメッセージを送った2日後に、田平さんが働いていた六本木まで会いに行ったんですよね。自分のアイデアを初めて話したのが田平さんだったので、もし最初に「無理だと思う」と言われていたら、始めていなかったと思います。

その後、私の漠然としたアイデアから、田平さんがエンジニア向けのサービスを例に出して「どれがイメージと近いか」をすり合わせて、サービスの形が決まっていきました。

田平:QiitaやSlideShare、Stack Overflowあたりをシェアして検討しましたね。Qiitaのようなブログ形式で1からコンテンツを作るのは、多忙な医師にとって負荷が高いと思ったので、手元にあるコンテンツをそのまま活かせるSlideShareのようなサービスから始めることになりました。

週末に仲間で集まってディスカッションを重ね、私がプロトタイプを作成。Antaaにジョインしたエンジニアの方に引き継いで、2016年、スライド共有のサービスをスタートしました。

中山:田平さんには、その後も協力してもらっていました。自社サイト改修のサポートや、システムが止まった時の復旧など。本当は、正規のエンジニアとして入ってほしくて、ちょくちょく「一緒にやらない?」と誘っていたんですけどね(笑)

田平:当時はヤフーの仕事も面白かったし、大規模サービスの開発経験を幅広く積みたいと思っていたんですよね。Antaaとの関わりは、本業以外のプロボノのような形が当時の私にはベストに感じていて。

Antaaの雰囲気は、肩の力が抜けていて心地よいなと思っていました。サービスユーザーのお医者さん始め、Antaaが好きで関わっている人たちがたくさん出入りしていて、家族みたいにワイワイやっている姿が印象的でしたね。

Q&Aサービスで、命が助かる瞬間に立ち会う

ーーリリース後、サービスは順調に伸びていったのでしょうか?

中山:「Antaa Slide」は、軌道に乗るまで時間がかかりました。当初は、よくわからないスタートアップ企業に資料を投稿するのは不安だとリスクを懸念されることが多かったんです。

その後、2017年に医師が抱える問題を直に解決することに焦点を当てて始めたのが「Antaa QA」でした。こちらの方は比較的順調に伸びていきました。

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とはいえ、知らない医師の質問に「回答する」ことのハードルが高いだろうと想定していたので、まずは「Antaaは安心安全な場だ」と思ってもらえるよう顔が見える関係性を作ることを重視。

2017年~2019年まで週1回以上オフラインでイベントや勉強会を開催し、医師のコミュニティづくりに注力していました。そこでできた関係性を軸に、QAでも質問回答が少しづつ増えていき、Slideも含めてサービス利用者が増えていきました。
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田平:2020年はコロナで学会やイベントが中止となったのを機に、オンライン動画配信をスタートして、300回ほど開催しました。中山さん自らスマホで撮影して配信し続けていましたよね。今は専用のスタジオ、カメラ、技術スタッフがいてコンテンツの質も量も進化しています。

中山:オンライン配信経由で新規ユーザーがさらに増えて、他のサービスも利用してもらえる循環ができてきました。今振り返っても私自身、かなり泥臭く動いてきたなと。とにかく、Antaaは医師が安心して参加できて、成長できる場だというブランドイメージを作りたくて東奔西走してきた感じです。

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右肩上がりでユーザー数が増えていった

ーー地道な活動が3万人のユーザーに利用してもらえる土台になったのですね。サービスを成長させていく中で、特に印象に残っている出来事はありますか?

中山:数えきれないほどありますが、私が目指す「サービスを通して人の命をつなぐ」という理想をまさに実感できた出来事があります。

2018年のことですが、「Antaa QA」で夜中に離島の診療所の医師から急患の対応について相談がありました。それに対して数名の医師から次々とアドバイスが投稿されました。「心筋梗塞ではないか」など緊迫したやり取りが続いて、最終的にドクターヘリが出動。その患者さんは都内の病院に搬送され、緊急手術を受けて一命を取り留めたことがありました。

このやり取りをみて、鳥肌がたちました。「患者さんが助かったんだ。このサービスを作って本当に良かった」と心から思った瞬間でしたね。

田平:Antaaのサービスの象徴ともいえる事例ですよね。他には「Antaa Slide」に共有した資料が注目を集めて、雑誌の連載や書籍の出版が決まったり、「『この先生がいる病院で働きたい』と見学に来てくれた」とご報告いただいたことも。医師のチャンスを広げ、キャリア面でも役立てるんだと新たな発見でもありました。

創業から5年越しの入社へ。サービス改善がスピードアップ

ーー田平さんは、2021年1月、アンタ―に正式にジョインしました。どんな経緯があったのでしょうか?

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開発マネージャー田平さん

田平:ヤフーで担当していたヘルスケアサービスのクローズが決定したのがきっかけです。もともとこのサービスを最後に退職を決めていました。その際、Antaaからのオファーと、ヘルスケア事業も行っているAI企業の内定をいただきました。

最終的にAntaaに決めたのは、医師が使うサービスのためダイレクトに医療に直結していることが魅力的だったからです。ヘルスケア領域といっても幅が広く、企業によって医療との距離が全く異なっていますので。それから、大企業を経験した後に入るなら、ある程度組織の整った中規模の企業ではなく、小さいベンチャーで、これまで培ってきたスキルを存分に活かしてチャレンジしたいと思ったのもあります。

私は大学院生のときにアプリ開発会社でアルバイトしたのを機に、システム開発者の道を選んだのですが、実は高校時代から「1人の命を助けたと思える人生にしたい」という想いがあって、大学は生命科学に進みました。その後も医療への関心はずっと心のどこかにあったんですね。ただ、同級生だった中山さんと一緒に仕事をすることになるとは。不思議なご縁だなと感じます。

中山:いろいろなタイミングが重なって、創業から5年越しで田平さんを迎え入れることができました。田平さんがジョインしてから、改善スピードが加速しています。課題に対して明確な仮説を立てて前に進めてくれるため、安心して任せられる開発体制へと進化したと思います。

3人で創業した組織も今や常勤7名、業務委託・アルバイト8名の総勢15名に。一人ひとりが自由度高くやりたいことをやるフェーズから、役割と責任範囲が明確になって得意分野に分かれてパフォーマンスを出せるようになってきました。

ーー田平さんは入社後、どんな業務に携わってきたのでしょうか?

田平:開発マネージャーとして、チームマネジメントや技術選定など開発面を幅広く担当しています。入社直後に手がけたのは「Antaa QA」のアカウント登録のドロップ率の改善でした。当時、登録までに手間がかかる仕様だったので、画面数や入力項目を減らして自動化するなどUIを含めて全面的に見直し、スピーディーに登録できるように変更。離脱を防ぐことに効果を上げました。

最近取り組んでいたのは、サービスのパフォーマンス改善です。操作にストレスを感じないように画面のスピードを上げたりですね。サービスの改善に関しては、細かい部分を含めてやるべきことがまだまだあるので、優先順位を付けてチームで取り組んでいます。

Antaaの開発では「人命が助かるか」がかかっているため、サーバーのログ1行1行にも重みを感じています。1つリクエストを取りこぼすことが一大事につながるかもしれません。いい意味でプレッシャーを感じますし、クオリティーの高いものを作ろうというモチベーションになっていますね。

※参考:Antaaの使用技術
フレームワーク:Ruby on Rails, Next.js, Spring Boot
インフラ:AWS, Firebase
データベース:Amazon RDS (MySQL, Aurora)
オーケストレーション:Amazon ECS
スマホアプリ:React Native (Expo)
CI:CircleCI
BI:Redash
その他:GitHub, Slack, Docbase, Backlog

システムを刷新し、開発スピードを上げていく

ーーAntaaは、2021年8月にJMDCのグループに参画しました。どんな経緯があったのでしょうか。

中山:同じくJMDCのグループ会社であるflixyの吉永さんに声をかけてもらったのがきっかけです。吉永さんとは2018年から戦略の相談に乗ってもらったり、一緒にプロジェクトをやったり親交を深めていました。

JMDC側とお話する中で、JMDCのビジョンや私たちの「医師のネットワークを作っていきたい」という理想が重なっていることや、JMDCのお互いを尊重するカルチャーや空気感がAntaaとフィットしそうだと感じました。一緒にやっていくことでAntaaがもっと前に進んでいけると判断して、グループの仲間入りを決断しました。

ーー今後の展望を聞かせてください。

中山:JMDCグループに加わったことで、Antaaを伸ばしていこうとサポートしてくれる人たちが増えたのを実感しています。アイデアを議論するうちに、私自身、視野が広がり「私の役割ややるべきことは何なのか」ということもよく考えるようになりました。

今後もAntaaのミッション「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」実現のために、愚直に挑戦していきたいと思っています。そのために、医師にとってより使いやすいものとすることに引き続き注力したいですね。

田平:そうですね。現在は、各サービスの運営体制を構築できているので、さらにサービスを進化させていくためにはどうしたらいいか考えを深める段階にあります。

施策のひとつとして、近々、大々的にシステムを刷新することになりました。これまでサービスごとに異なる技術を使っており、解決難易度の高い課題が発生することがあったのですが、刷新後は、こうした課題も減っていくでしょう。さらに開発スピードを2倍、3倍へと上げていき、医療業界に貢献できる質の高いプロダクトを作っていきたいと思っています。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。
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