健康保険組合や共済組合向けのデータ分析や保健事業支援などを行う保険者支援事業本部。今後、さらに事業範囲を拡大し、JMDCの中核ビジネスとしてさらに確固たる基盤を築くことが期待されています。具体的にどのようなビジネスを展開し、何を目指すのか。外資系コンサルティングファームや医療ベンチャーなどを経てJMDCに入社し、現在は同事業本部で副本部長を務める広田さんに保険者支援事業の全貌と今後の展望について伺いました。
<プロフィール>
広田 幸生(ひろた さちお) 株式会社JMDC 保険者支援事業本部 副本部長
トランスコスモス、アクセンチュア、リクルート、医療ベンチャーを経てJMDCに入社。保険者支援事業本部副本部長 に就任し、PHRの戦略立案やデータヘルスに携わっている。
ヘルスデータ分析をもとに事業を生み出すヘルスケア企業は世界的にも珍しい
――まず、広田さんのご経歴について教えてください。
新卒から5年間はITコンサルタントとして大規模なERP開発案件などに携わりました。コンサルタントとして経験を積むうちに「もっと自分でも事業を作りたい」と思うようになり、次に入社したのがリクルートでした。というのも、事業作りといえばリクルートというイメージを持っていたからです。リクルートの人材紹介部門で、経営企画や新規事業開発、海外事業などに9年ほど携わりました。
リクルートを卒業した後に入社したのが医療ベンチャーです。当時は社員が4人くらいしかいなくて、立ち上がったばかりの会社でした。同社は医療機関の経営支援、運営支援を行う事業を行っていて、私は在宅医療や病院事業の立ち上げなどを担当しました。同社でのキャリアの後半はコロナ禍のタイミングだったこともあり、ワクチン接種およびPCR検査事業などの立ち上げや、海外も含めた新事業などにも携わらせていただいておりました。
――その後、JMDCに入社されたわけですが、きっかけについて教えてください。
ご縁あってJMDCの方と話す機会があり、ヘルスデータを活かして予防や個別化治療を実現するという世界観に強く共感したことがきっかけでした。データを使って病気を予防するデータヘルスの考え方をもっと広めていきたい、そのために様々な事業を生み出すフェーズであることも伺いました。これだけ価値のあるヘルスビッグデータを持っているのは世界的に見ても珍しいですし、データ分析だけでなく新たな事業を創っていこうとするJMDCで私もチャレンジしたいと思いました。
――広田さんのJMDCでの役割と保険者支援事業について教えてください。
入社当時は、PHR(Personal Health Record)の戦略立案を担当しました。その後、保険者支援事業本部の副本部長を務めています。
保険者支援事業はJMDCの祖業です。創業当時は保険者の保有するレセプトや健診結果などの情報は紙で保管されていたので、お客様から紙をお預かりしてパンチングしてデータ化するというところからスタートしたそうです。お預かりしたデータを匿名加工して分析可能な状態とし、アカデミアや産業界にも活用いただくという、まさにJMDCのビジネスモデル、競争優位の源泉となる事業部です。
▼お客様から紙のレセプトをお預かりし、パッチングしてデータ化してきたエピソードについて語られている記事もございますので、ぜひご覧ください。
現在ではデータ分析も少しずつ浸透してきたこともあり、多くの保険者様に当社のデータ分析ツール「らくらく健助」を導入いただいています。保険者支援事業本部のミッションはそういった保険者様のデータ分析をご支援することであり、さらにそこから加入者の方々の重症化予防や生活習慣病予防までサポートしています。現在、全国の健康保険組合には約2,800万人ほどの加入者がいらっしゃるのですが、JMDCはその半数のデータをお預かりしています。これだけの高いシェアを取れていることが、JMDCの成長の原動力なのです。
保険者支援事業本部が目指す横断的ヘルスデータ
――保険者支援事業本部として目指していることについて教えてください。
当本部が取り扱っているヘルスビッグデータを健康保険組合や共済組合だけでなく、その先にいる加入企業や自治体データまで取り扱うことで、健康増進や病気の予防効果を向上することが大きな目標です。
こうしたデータヘルスの取り組みは本来、保険者同士が連携して行うのがスムーズなのかもしれません。しかし、健康保険組合は小規模な組合も多く、必要なリソースやノウハウを持っているわけではありません。だからこそ、保険者支援事業本部が保険者データのインフラとしての役割を果たす必要があるのです。
予算も人的リソースも限られる健康保険組合をJMDCがまとめてご支援しながら、データだけでなく様々な保険者機能を共通化することで、健康保険組合も規模感をもって保健事業を遂行できるようになるでしょう。健康保険組合は高齢者の医療費を負担しており、今後は少子化対策においても役割を期待されています。健康保険組合がきちんと機能し続けることは、この国の医療を支える上で不可欠なのです。医療費を削減するという点でも、高齢者医療の点でも、JMDCの保険者支援事業は実は日本の医療課題のど真ん中にいる存在だと自負しています。
ヘルスビッグデータをさらに増やし「顧客の継続性」を高める
――JMDCの扱うヘルスビッグデータとはどのようなデータなのでしょうか。
JMDCでは主に次の4種類を取り扱っています。
- 健康保険組合から受領するデータ(保険者データ)
- 医療機関から受領するデータ
- 自治体から受領するデータ
- PHRデータ(個人の健康データ)
なかでもJMDCが保有するデータ量として最大規模となるのが健康保険組合から受領するデータです。具体的には医療機関にかかった際の医療行為の詳細と請求書であるレセプトデータや、電子カルテ、処方箋、健康診断、体重や血圧といったバイタルデータなどがあります。これらのうち、もっとも価値の高いのがレセプトデータです。たとえば電子カルテのデータであれば、ドクターごとに記載内容が異なったり、そもそも開示してもらえない内容があったりします。その点、レセプトデータは健康保険組合などの保険者がすべて保有しており、標準化もされているためデータ分析がしやすいのです。
▼JMDCの扱うヘルスビッグデータについての記事もございますので、ぜひご覧ください。
――このヘルスビッグデータを今後どのように増やそうとしているのでしょうか。
ヘルスビッグデータを増やすために3つの取り組みを行っています。
1つ目は、健康保険組合の全体の6割のデータを獲得するために顧客の規模やセグメントに応じた営業組織体制作りとマネジメントシステムの改革に取り組んでいます。先ほど申し上げたように、JMDCは健康保険組合加入者の半数にあたる1,400万人のデータを保有しています。
データが多いほど希少疾患も含めて分析精度は上がるため、大規模営業組織マネジメントを通して、規模ごとにセグメントや、営業チームの編成、顧客管理、KPI、営業手法なども改革をしながら、営業組織を強化したいと考えています。
そして2つ目は、ヘルスビッグデータを保有する企業との協業です。JMDCは2024年に自治体向けに予防医療サービスを提供するキャンサースキャン社をJMDCグループに迎えました。これは自治体や健康保険組合以外へのアプローチを強化するためです。健康保険組合のデータは65歳以下のデータがほとんどを占めていますが、医療費がかかってくるのは65歳以上の年代です。たとえば癌になり、治療しながら仕事をする。その後、退職して国民健康保険に移り、治療を継続して寛解する。そうした治療全体の流れや計画に当たる「クリニカルパス」をカバーするためには、現在保有する健康保険組合以外の全てのデータをカバーすることが重要になります。
しかし、健康保険組合から共済、そして自治体へという横の広がりだけを戦略として描いているわけではありません。たとえば健康保険組合に対しても、さらに深いビジネスを展開しようと試みています。というのも、これまではデータビジネスが主だったわけですが、そこにPHRサービスが加わって売上や利益の向上、顧客拡大の可能性が見えてきたからです。
ーーそして3つ目がPHRデバイスを活用したデータ集積ということですね。
はい、IoT型のPHRデバイスを活用したデータ集積と分析もしています。私見ですが、たとえばリング型のヘルスモニタリングデバイスを世界で最初に普及させられるのはJMDCだと思っていますし、それ以外にも体にインプラントを埋め込み、バイタルデータを集積するといった世界の実現もJMDCがリードできると考えています。
JMDCではすでに約700万IDを発行している日本最大のPHRで、国が進める民間PHRの社会実装でも注目されているプロダクトである「Pep Up」を提供しています。健康保険組合からは健康診断のデータやバイタルデータをお預かりしているのですが、今後はIoTなどとの組み合わせでさらに個人からもデータを集められるようにしていきたいと考えています。PHRについては多くの企業が参入したい領域で、新規事業化を検討しているのですが、参入したからといってビジネスが成立するとは限らないのが難しい点です。その点、JMDCはすでにビジネスモデルが確立されており、挑戦しやすいポジションにいます。
実はPep Upは健康保険組合だけでなく、企業も部分的に使えるようになっています。それを活かして、たとえば被保険者が加入者に対して健康管理をするだけでなく、健康イベントを主催して参加した社員にインセンティブを支払い、エンゲージメントを高めたり健康経営を推進したりする取り組みにも活用の場が広がっています。また、Pep Upを通じてメンタルヘルスなどのソリューションもご提供できるようにしていきたいですね。
いずれにしても、JMDCでは保険者や企業から請け負う業務プロセスも、提供するサービスソリューションも広がっており、今後は個人にも直接サービスを届けるようになっていきます。近い将来、JMDCが単なる健康サービスプロバイダーではなく、健康に関わるソリューションを法人も個人も享受できるエコシステムを担う存在へと成長していければと思います。
このようなデータを増やす取り組みに加えて、「サービス利用の継続性」を高めることも大切です。継続性が高ければ、1人のデータを経年で追い続けられるようになり、健康保険組合以外の保険者にも対象を広げられれば、仮に加入者が組合を移った後も継続してデータを集積できます。そうすると、データヘルスの質も高まり、JMDCとしても提供商品数を増やしたり、事業開発につなげたりできるでしょう。そういった意味で、保険者におけるデータシェアを高め、顧客の継続性も高め、保険者の先にある企業まで広げることが、我々の成長戦略として重要になっているのです。
ヘルスビッグデータを利活用した次なる4つの挑戦
ーー今後増加するヘルスビッグデータを利活用した取り組みについても教えてください。
今後はヘルスビッグデータを利活用し、4つの領域にチャレンジしようとしています。
■BPaaS(SaaS+BPO)
新たなチャレンジの1つとして考えていることが、予防や保健事業分野のエンタープライズ向けのSaaSビジネスです。現時点ですでにマーケットシェアとしては高いレベルに達しているため、今後はアウトソーシングを絡めたり、BPaaSという形を展開して、顧客への提供価値の幅を広げることが必要です。そうすることで、まだ獲得できていない顧客のラストワンマイルを取りに行きたいですね。
また、SaaSからはBPOへの展開も行っていきます。BPOというと人海戦術のようなイメージを持たれるかもしれませんが、どちらかといえばデータドリブンで最適な保健事業施策をご提案し、それを1つの画面で管理できるようなイメージです。この部分がPHRとつながってくると、データ同士のつながりが生まれ、事業開発の余地も生まれてくるでしょう。
■コラボヘルス
また、「コラボヘルス」にも注力しています。「コラボヘルス」とは、健康保険組合とその先にいる加入企業がコラボして、データヘルスや予防を進めるという考え方のことです。そこでJMDCとしては、健康保険組合のご支援を強化しながら事業主との直接取り引きも増やして、健康経営やそれに紐づく採用力、ブランド、生産性の向上などをきちんとご支援していこうと考えています。その際、単に健康経営ソリューションを提供するのではなく、データドリブンで効果検証をしっかりと行えることが重要です。
余談ですが、健康保険組合は企業の人事や総務からの出向が多く、3年経つとまた元の企業に戻ってしまうケースが多いんです。ということは、実はお客様の保健事業を一番理解しているのは健康保険組合の方だけではなく、JMDCの営業メンバーであることも多いんです。そういった意味でも、安心して当社にお任せいただきたいですね。
■介入プラットフォーム
保険者が加入者個人に対して健康診断や必要な受診、健康につながる様々なアクションを促す介入を既にご支援していますが、こうした予防介入のツールをプラットフォーム化したいと考えています。保険者も健康保険組合によって予算がありますし、どこまでのリスクの方にどのような介入を行うのかは難しい点ですが、介入プラットフォームであれば、予算上最適な介入施策をご提案したり、複数の健保で共同購買、共同利用することでコスト抑制できたりする、そんな世界を作りたいです。
■海外展開
海外展開もJMDCにとっては大きな可能性の1つです。実は「医療×デジタル」でのビジネスは国をまたいで展開することが難しいんです。なぜなら国によって法律も制度も異なるからです。しかし、将来的には国をまたいで挑戦できるように、今後調整していきたいと思っています。
保険者支援事業は当社の中核であり、人材輩出部門になる
――JMDCと保険者支援事業本部の今後の展望について教えてください。
JMDCの事業にはいろいろなフェーズがあります。これまでのJMDCは健康保険組合というドメインナレッジで勝ってきた会社でしたが、これからは新たに基盤を作ってドメイン拡張し、戦略やマーケティングで戦って勝つフェーズに入っています。
また保険者支援事業本部はJMDCにとっての中核であると同時に、人材輩出部門でもありたいと思っています。ポストコンサルタントはもちろん、オペレーションマネジメント系の人材も経営人材として成長できるのが保険者支援事業本部だからです。
JMDCは外から見るとコンサルタントが強いイメージを持たれることが多いですし、実際に多くのコンサルの方々が活躍しているのですが、事業会社で活躍してきた人材も活躍の場が多くあります。事業開発もさらに進めなければならないし、オペレーションに強い人材も必要です。ぜひ他業界で大きな事業や営業組織のマネジメント、新規事業開発を経験してきたような方に入社していただきたいですね。保険者支援事業本部では様々な経験を積み、さらに成長できます。そうやって事業経営人材の輩出部門となり、JMDCの成長を牽引していきたいと考えています。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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