【新卒インタビュー】医師xデータサイエンティストが挑む医療の未来

 

医学部に入学した方の9割以上は臨床医の道に進みます。しかし、稀に臨床医ではなく別の道を志す人もいるのです。そのひとりが、初期臨床研修を経て医師免許を取得しながら、専門医ではなくJMDCに新卒入社した佐野さん。なぜ佐野さんは臨床医ではなく、データ分析の仕事を選択したのか。JMDCを選んだ決め手は何だったのか。これまでの経歴や、JMDC入社の理由、データサイエンスで成果を出せた現在の業務など、幅広くお話をお聞きしました。

 

<プロフィール>
佐野 舜介(さの しゅんすけ) デジタル&データ新規事業部 データサイエンティスト/医師
2016年、京都大学医学部医学科卒業。大学在学中より、現JMDC子会社のリアルワールドデータ株式会社にて、医療機関向けデータ分析業務を経験。国立国際医療研究センター病院にて、初期臨床研修を行い、内科系診療科を中心に診療業務に従事。2024年より株式会社JMDCに入社し、製薬企業向けのデータ分析、予測モデル開発を主に担当

 

医師免許を取得しながら、臨床医ではなくデータの道を選んだ理由

ーーまず、佐野さんのご経歴についてお聞きします。医学部のご出身ですが、そもそも医師を志したきっかけはなんだったのでしょうか。

私は親族に医療関係者がいたわけでもなかったのですが、小学校の卒業文集にはすでに「将来の夢」として医師をあげていました。その夢のきっかけは、子どものころから生物が好きだったことです。生物の体の仕組みが非常に興味深く、強烈に惹かれたんですね。比喩的ですが、“神様がデザインした”と思えるほど優れた仕組みだと感じていました。

もう1つの理由はTVドラマの影響です。小学生のころ、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』や『チーム・バチスタの栄光』といったドラマに夢中になり、医師はかっこいいなと思いました。ほかにも、進路を真剣に考える高校生のころに、山中先生がちょうどiPS細胞でノーベル賞を受賞されたことにも影響を受けました。

 

ーーそこで医学部へ進学されたわけですね。多くの方は医学部から臨床医の道に進まれると思いますが、佐野さんはどのような経路でJMDCに入社されたのでしょうか。

まず、一般的な医師のキャリアを説明します。医学部で6年間学んだあと、最初の選択肢が訪れます。医師国家試験を受けて初期臨床研修、いわゆる研修医に進む道と、研究者や企業など就職の選択をする道です。9割以上の方は初期臨床研修に進みます。

そして、2年間の初期臨床研修を終えたら、専門医の資格を取得するために、後期研修をします。ここで自身の専門分野を確定し、後期研修を終えると内科や外科といった専門医になるわけです。その後は、一般の病院に勤務する方もいれば、大学院に進んで研究をしたり、親族が経営している病院を継ぐこともありますし、開業する方もいます。

一方で、初期臨床研修を終えたあと専門医にならず、ここで別の道を選ぶ人も少数ながらいます。私はこのパターンです。医師免許を取得し、初期臨床研修を終えてから、JMDCに新卒で入社しました。

 

ーー佐野さんは、なぜそのタイミングで医師の道ではなく別の道を選ばれたのでしょうか。

きっかけは、医学部時代のアルバイトです。現在JMDCのグループ会社であるリアルワールドデータ社で仕事をしていたのですが、そこで考え方に大きな影響を受けました。

リアルワールドデータ社では病院からデータをお預かりして、その病院の医療の質を分析し、レポートを返すという事業を行っていました。それによって、その病院の医療の質を向上させ、患者さんに還元するというアプローチをとっていたんです。

この点が、私はとても面白いと思いました。というのも、医師として患者さんを診るよりも、圧倒的に多くの方にリーチできるからです。

 

ーー佐野さんは親族に医療関係者がいない環境だったとのことですが、だからこそそういった発想に至った面もあるのでしょうか。

たしかに、そうかもしれません。子どものころから家業として医療を見てきた人間ではなかったし、実家の病院を継ぐという選択肢もありませんでした。そのこだわりがなかったからこそ、視野を広く持ってキャリアの選択肢が生まれたのかもしれません。

 

ーーちなみにリアルワールドデータ社でアルバイトをすることになったきっかけについても教えてください。

大学の教授がリアルワールドデータ社の設立にかかわっていたからです。また、医学とデータに関する講義をされていて、私も受講していました。そこで学んだ「ライフコースデータ」という考え方に強く影響を受けましたね。ライフコースデータとは、人が生まれてから死ぬまでの一貫した医療のデータのことを指します。それにより、幼少期の健康状態などが将来にどのように影響するのかを予測するような研究ができたりします。

ーー佐野さん自身はリアルワールドデータ社でどのような業務をしていたのでしょうか。

病院からお預かりしたデータを分析して病院の質を評価するため、“成績表”をまとめる仕事を担当していました。具体的には、「あなたの病院は、この病気に対して、どのような治療をして、その結果患者さんの治療成績はこんな感じで、それは全国の病院と比べてこれくらいです」といったレポートです。病院の経営に関する分析やコンサルティングは他社でも提供するところはありますが、医療の質を評価するレポートは当時はまだ新しかったと思います。

 

ーーデータ分析という業務の、どのような点が面白いと思われたのでしょうか。

1つは純粋に、プログラミングが楽しかったことです。自分が書いたコードが最終的に動いたときの喜びは、ブロックを組み立てて完成したときに近いものがあります。それから、データを分析して可視化するプロセスそのものも面白いですね。データはそれだけだと単なる数字の羅列だったりするのですが、そこから要素を抽出してきれいなグラフにしたりすると、急に見えてくるものがあったりするんです。そういったステップはとても楽しいですね。

 

初期臨床研修の経験があるからこそ、高い解像度でデータを分析できる

ーーただ、いまのお話ですと、初期臨床研修に進まず医学部卒業後にデータの道へ進む選択肢もあったのではないかと思います。なぜ初期臨床研修に進まれたのでしょうか。

これもリアルワールドデータ社での経験が大きいです。同社でアルバイトしていたとき、私の上司にあたる方が臨床経験豊富な医師でした。ほかにも同社には臨床経験のあるデータサイエンティストがたくさんいたんです。

医師免許を持っていると、データ分析の解像度も格段に上がるんですよ。例えば、胃の粘膜が傷つく胃潰瘍という病気についてレセプトデータで調べると、想定の何倍もの患者さんが出現することがあります。レセプトデータ上で、胃潰瘍という病名が付けられている人が本当に全て胃潰瘍なのかというと、そんなことはなく、実際は腰痛や膝の痛みで整形外科を受診している患者さんだったりします。なぜ、このようなことが起きるのかというと、腰痛などに対して処方される痛み止めには、胃が荒れる副作用を持つものがあり、副作用予防で胃薬が一緒に処方されることが多いです。胃薬を処方するためには、保険診療請求上、胃潰瘍という病名が必要なので、胃潰瘍という病名が付けられることが多々あります。このように、実際の診断とレセプトで違う病名が記録されるのはよくあることで、「レセプト病名」と呼ばれています。

 

レセプトデータイメージ

そうなると我々が病院からいただくレセプトデータでは「胃潰瘍」という記録になっているわけですが、本当の病名はなんだろう? ということを考えなくてはいけません。胃カメラをして胃潰瘍の病名が付いているから、本当に胃潰瘍の人なのだろうなとか、整形外科で腰痛の病名と一緒に出てきているから本当は胃潰瘍ではないんだろうなとかそのようなことを考えます。データを見て、こうした点に気づけるかどうかは、医師としての経験が活きてきます。

 

ーーそのような事情があるのですね。データサイエンティストからすると大変ですね。

そうですね。ただ、レセプトデータはデータ分析のためにあるわけではないですからね。そもそもは診療報酬の請求をするためのものですから、現場としてはその目的にかなっていればいいんです。データベースと事実のギャップを埋めるのが、私たちの役割ですからね。

それから、病院の実情に対する解像度も、やはり初期臨床研修の経験がある方が高いですね。また、病院側とのコミュニケーションについても、解像度が高い方がギャップが生まれにくいです。

繰り返しになりますが、データ自体は単なる数字です。データの向こうにいる患者さんのイメージをしっかり捉えてデータに触れたくて、初期臨床研修を経験しました。

 

もし臨床医を続けていたら総合診療科を選んでいた

ーーもし、臨床後期研修を受けていた場合、どの専門医を目指していましたか。

その場合は、総合診療科を選んでいたと思います。総合診療科は日本ではわりと新しい診療科で、まだそれほど広まっていません。というのも、一般的な診療科は非常に専門的で縦割りなんです。循環器内科の医師は心臓や血管の専門ですし、消化器内科の医師は消化器を専門にしています。専門領域にフォーカスして力を発揮するのが医師の実情なんです。

それで問題なければいいのですが、高齢化が進むこれからの日本はそうもいきません。年齢を重ねるにつれて、身体の複数の箇所に変化が起きやすくなります。例えば加齢などにより足腰が思うように動かしづらくなったり、心臓や肺の機能が以前より低下してしまう、といったことが当たり前にあります。とても特定の診療科だけでは対応できません。そこで総合診療科では、幅広い知見を持ってそうした患者さんのコーディネートを行う診療科なんです。

具体的には、全身の治療には自分で対応して一部の処置だけ専門科にお願いするようなケースもあれば、診断のスペシャリストとして各診療科へのご紹介を行うケースもあります。総合診療医は地域特性や病院特性に合わせて、様々なスタイルで活躍されている方がいらっしゃり、今後ますます定着していくでしょう。

 

ーー佐野さんはなぜ総合診療科に興味を持ったのでしょうか。

興味を持った理由は2つあります。1つは、初期臨床研修で多くの診療科をローテーションし、領域をまたいで患者さんに対応できる総合診療医の必要性を強く実感したことです。私が子どものころにかかっていた先生がいわゆる町医者で、なんでも相談にのってくれていたことも私の中の医師像に影響しているかもしれませんね。

2つ目は、専門医の道を選んでも、それを一生続けることはないだろうと思っていたこと。おそらく、私はどこかのタイミングでデータの世界に行くだろうと予感していました。だとすれば、そのデータの世界で必要とされるのは、できるだけ幅広い診療の知識だと考えたんです。

 

JMDCなら日本の医療が抱える課題を解決できる

ーー結果としては総合診療科の医師ではなく、新卒で2024年にJMDCに入社されました。

そうですね。臨床医の道も気になりつつ、それでもデータの道を選んだ背景には、現状の医療に対する課題感がありました。それは、医療がどうしても後手に回りがちということです。たとえば、臨床研修医時代の経験として、ある年配の男性が救急車で運ばれてきて、MRIをとったところ脳梗塞が見つかったことがありました。その時に、同時に心房細動という不整脈も見つかり、心房細動が原因となって脳梗塞を起こしていたんです。この心房細動は血液をさらさらにするお薬を飲めば脳梗塞になるのを防ぐことができます。どこかのタイミングで心房細動の診断を受けていれば、結果として脳梗塞や後遺症を防げたかもしれないんです。

こんなふうに、なにか大きなイベントが起きてからだと、失われた機能が戻らないことがよくあります。それなら、イベントが起きる前に対処すべきだと思うんです。現状の医療ではどうしても後手後手に回らざるを得ないなら、データで貢献できるのではと考えたのです。

 

ーーたしかに症状が出てから病院に行く患者さんも多いですからね。

はい。これはある意味、日本の健康保険制度が整っているからかもしれませんね。医療費もそんなに高価ではないから、病気になってから行けばいいという感覚になりがちです。病院にしても、予防的な医療については保険点数がつかないためあまり積極的ではありません。

ただ、ここは議論があるところで、予防医療といっても結局は医療費がかかるタイミングを前にずらしているだけで医療費の削減にはならないのではないかという意見もあります。しかし、コストの観点だけでなく、患者さんが健康に暮らせるという意味では、予防医療のベネフィットは大きいと思います。

この点については、JMDCの面接で松島会長に言われた言葉がしっくりきました。松島会長が言うには、「これまでの健康・医療は、保険の枠組みである」と。つまり、何かが起きたあとでケアする仕組みです。一方で、「これからの健康・医療は投資」なんだと言うわけです。その考えを持って、将来に向けて前もって健康に投資しなければならないんだ、と。

私の中には、やはり学生時代に学んだ「ライフコースデータ」の考え方が根付いているんです。生まれてから死ぬまでのデータをもとに、病気を予測して予防する。それがやりたいんです。


潜在患者の発見!データサイエンスで示せた成果

ーーさまざまなデータ企業がある中で、JMDCに入社を決めた理由を教えてください。

就職活動の軸は「医療」と「データ」に置いていました。他社では患者さんではなく医師にアプローチする事業の企業や、費用対効果などの医療経済を研究する企業なども視野に入れていたのですが、「データでより多くの患者さんにベネフィットを提供する」という私のやりたいことに一番近いのがJMDCだと思いました。JMDC自体はもちろん知っていたし、就職活動の軸にしていた「医療」と「データ」にも合致したのが決め手でした。

あとはデータの規模ですね。JMDCに多くの企業がグループインし、様々なヘルスデータを増やしています。この業界はいずれM&Aなどによりある程度整理され、大手企業に集約されていくでしょう。その中で最も有望なのがJMDCだと思います。

 

ーー入社後の業務についても教えてください。

現在は製薬企業向けに機械学習によるマーケティング支援の業務をしています。たとえば、ある製薬企業が新しい薬を開発したとします。そうすると次に製薬企業は、その薬を必要とする患者さんが、どの病院にどれくらいいるのかを調査します。対象人数がはっきりすれば、営業のリソースを適切に分配できるからですね。

開発した新薬の対象患者が既存の薬に近いのであれば、これまでのデータからある程度めどはつきます。しかし、新薬がその領域で初めて開発されたものであった場合は、既存薬も含めてこれまでに販売実績がないわけですから、どの病院にどれくらい営業すればいいのかわかりません。ではレセプトデータを見れば患者さんの数が推定できるのかというと、そうでもないんです。ここで出てくるのが先ほどお話ししたレセプト病名問題です。

本来なら新薬の対象となる病気であっても、その病院ではずっと違う薬を出していた。だから、出した薬に応じた病名でレセプトには記録していた。そうした現状があるわけです。これでは新薬の対象となるべき患者さんの所在やボリュームがわかりません。

そこで機械学習の出番です。まずJMDCのデータベース上で、新薬の対象に近いと思われる病気の患者さんを抽出します。それらの患者さんはレセプトデータ上はレセプト病名で記録されていますが、中には一定数、新薬の対象となる方が含まれているはずです。そこで、機械学習を用いて「本当は新薬を出すべき患者(潜在患者)」をピックアップするというわけです。私は、この機械学習モデルを開発する業務を担っています。

▲機械学習モデル開発中イメージ


ーー佐野さんが開発された機械学習モデルは、JMDCのIR資料にも掲載されたそうですね。

はい。従来の分析手法では、捉えることができなかった新薬の対象となる新たな患者さんがいらっしゃる施設を私が開発したモデルによって各段に高い精度で突き止めることに成功しました。製薬会社の専門家からも、非常に信頼性の高いモデルであると、高く評価いただけました。これにより、新薬を必要とするより多くの患者さんの治療機会が広がったと実感しています。

▲2025年3月期第2四半期決算説明会資料より抜粋

ーーまさに、佐野さんがやりたかった「多くの患者さんへのアプローチ」が実現できていますね。

患者さんに対して必要な薬が届けられることに寄与できたという感覚はありますね。それが私としても大きなやりがいになっています。これは、私が医療現場の経験をしたからこそ想像できるのかもしれません。

せっかく製薬企業がすばらしい薬をつくっても、それが届かないのでは意味がありません。病気の治療というと医師が行う印象が強いですが、この仕事を通じて製薬企業の存在の大きさをあらためて実感しています。

 

ーー地域や病院によって医療の質はまちまちかと思いますが、佐野さんの仕事が医療全体の質の引き上げにつながりそうです。

ありがとうございます。たしかに広い意味ではそういった面もあるかもしれません。医療サイドでの見落としや、適切な薬が届かず治療がなされないという事態を防ぐ一助になれば嬉しいです。

 

ーー現在の業務に、医学部時代の知識は生きているでしょうか。

はい。医学部時代に学んだことや、臨床の現場で見てきたことは、現在の仕事にとても活きています。実際、モデル開発では研究レベルの論文も読みましたし、学生時代に勉強した教科書を掘り出してモデルの開発の参考にしたりしました。

 

ーー今後の展望について教えてください。

オムロンが親会社になったことで、血圧計や体重計とJMDCのデータが紐づけられるのではないかと考えています。それによって、日々のデータが蓄積されれば、またひとつ予防医療の解像度が高まると思います。

▲2025年3月期通期決算説明会資料より抜粋

 

また、もっと大きな話でいえば、ライフコースデータの実現をサポートしたいと思っています。結果がわかるのは数十年後かもしれませんが、最終的にはライフコースデータで皆さんの将来の健康に貢献したいです。

 

ーー佐野さんの後輩がもしこの記事を読まれたら、どのような質問をされると思いますか。

やっぱり「なぜ病院を離れたんですか?」でしょうか。それに対して私の回答は、「医療を少しでも前に進めたいから」ですね。病院は体の悪いところを治す役目です。つまり、マイナスをゼロに戻す場所。それはそれで、もちろん大切です。一方で、ゼロからプラスをつくり、医療を前進させる仕事は、病院から離れた場所でしかできないと思っています。病院だとできないことをやる。それが私がJMDCにいる意味なんです。