【製薬領域】JMDCはデータ販売だけじゃない。RWDを活用した新規事業を積極推進中

2002年の創業から医療ビッグデータ事業に注力してきたJMDC。現在、データ事業は100億円規模の安定した事業基盤へと成長を遂げました。一方、さらなる成長のために、これまで培ってきたデータを活用した新規ビジネスの創出に積極的にチャレンジしています。

製薬業界に向けても、2021年、新規事業開発を本格的にスタートしました。さまざまなトライ&エラーを通して、製薬企業へ新たなサービス提供を進めています。どんなチャレンジをしているのか。また今後実現したいこととは。COO兼製薬本部長の杉田さんに詳しく話を聞きました。

<プロフィール>
杉田 玲夢(すぎた れいむ)株式会社JMDC COO 兼 製薬本部長
NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、ボストンコンサルティンググループにて、ヘルスケア領域のプロジェクトを多数経験。 その後、株式会社クリンタルを創業。2018年、JMDCによる子会社化に伴い、COOに就任。デューク大学MBA。

 

製薬企業向けにRWDを活用した新規事業を始動

――JMDCでは、2021年に製薬領域で新規事業をスタートしました。どんな経緯があったのでしょうか?

JMDCは、2002年の創業から一貫してRWD(リアルワールドデータ※)に携わってきました。創業から10年はデータを集め、分析して使える状態になるまで量と質を高めることに注力。その後の10年でヘルスケア業界にRWDを提供し、成長を続けてきました。RWDのパイオニアとして、20年かけて医療ビッグデータ事業の基盤を築いてきました。

※RWD:医療の臨床現場で得られる医療データのこと。レセプトデータ、健診データなどが含まれる。ウェアラブルからのヘルスデータも含むことも。JMDCでは、創業時からレセプトを健康保険組合から収集し、国内最大規模の累計1400万人分のレセプトデータを保有している。

製薬業界に向けては、JMDC独自の医療データや解析サービス、Webツールなどを提供してきました。今では、国内製薬会社約70社の8~9割に当社のサービスを利用いただいています。製薬業界でRWD活用が根付いてきたのは、この5年ほどになりますが、当社のビッグデータが業界内で一定の役割を果たしてきたと言えると思います。

▲独自の医療データベースを軸にしたサービスを展開

▲RWD分析ツール

一方、JMDCが製薬会社とのお取引を通して、見えてきた課題もありました。データを購入いただいているものの、企業内で効果的に活用するまでに至っていないという課題です。データ自体はあくまで素材に過ぎないので、調理しないと使えるものにはなりません。

どんな分析をしたら、どんな価値を生み出せるのか。データ活用の可能性は大きく広がっているのですが、専門的な知見が必要とされる分野のため、現実的に難しいという側面があるのです。

こうした課題に対して、我々が製薬会社の中により深く入り、データを活用して課題解決するところまで伴走できれば、より高い価値を生み出せるのではないかと考えました。

そこで、2021年4月に製薬領域の新規事業部隊を立ち上げ、コンサルティングを軸に様々なサービスを考案し、ご提案してきました。

また、今後の事業環境を考えても、新規事業を仕掛けていくことは必要不可欠だと考えています。医療ビッグデータは、JMDCにとって代名詞と言えるほど事業優位性を確立しているのは事実です。しかし、RWDを販売する企業は他にも出てきていますし、今後はさらに増えていくでしょう。

そうすれば、いずれデータはコモディティ化して価格が下がっていくリスクがあります。JMDCがさらに一歩抜きんでるためには、既存のデータ事業を足がかりに、新しいビジネスを生み出していく必要があると考えています。

幸いなことに、JMDCでは「新しい事業やサービスをどんどん生み出していこう」という前向きでポジティブな空気にあふれています。それも、しっかり利益を創出しているビッグデータ事業があるからこそ。現業で積み上げた利益を事業開発に積極的に投資できるからこそ、未来に向けたチャレンジに取り組めています。

 

――製薬業界でチャレンジすることの意義は、どんな点にあるでしょうか?

製薬会社のミッションは、効果的な薬をできるだけ早く適切な患者さんにお届けすることだと捉えていますが、このミッションを我々のデータの力でより早く実現できるようにすることに社会的価値があると考えます。

数年かかる治験のプロセスをデータ利活用により数ヶ月でも短縮し、早く新薬を市場に出せるようにするのはその一例です。

また、製薬会社へ働きかけることは、医療の現状を変えていくことにもつながります。具体例をあげると、患者さんの受診行動をデータで把握することで、適切な診断がついていない理由や背景を考察できるので、製薬会社と共にアプローチ方法を検討できるようになりますし、診断がついた後も適切な治療が行われていない患者や医療機関の属性を分析することで、適切な治療に誘導できる可能性も生まれます。

 

――現在、製薬会社に向けて具体的にどんなサービスが進行していますか?

実際に動いているのは、データ分析の専門部署の立ち上げ・オペレーションのご支援や、薬の治験プロセスを効率化するサービス、新薬開発におけるデータドリブンな成分評価の仕組み作りのサポートなどです。いずれも半年以上の中長期間にわたり、各企業に伴走して進めているところです。

これまでは、データ自体の販売や分析ツールの提供がメインだったのですが、新規サービスでは、データに限らず「データや既存のアセットを活用して我々ができることは何か」という観点からありとあらゆる可能性を追求しています。

新規事業部門を立ち上げた2021年以降、20ほどのテーマを考案して、仮説検証を進めてきました。当然ながらトライ&エラーの連続でして、製薬会社へご提案しても箸にも棒にもかからないケースも多々ありましたね。こうした結果含めて、何がバリューになるのか検証を重ねながら、手探りで進めてきたと実感します。

我々は、RWDのパイオニアではあるものの、製薬業界に対して「どんなデータをどのように使えば、どんな価値を出せるのかをゼロから考える」のはこれまでにない試みです。今までにないものを生み出そうとしているわけですから、やはり難易度は高く、頭を捻りながら歩を進めています。一方で、まだ解のない問題を解こうとしているからこその面白さが、存分に味わえる。ここが0→1ならではの醍醐味だと実感しています。

 

――新規事業は、既存の製薬事業と比較すると、どんな点に特徴があるでしょうか?

一つは、扱うデータの種類が広がっている点です。レセプトなど当社が持つデータに限らず、必要であれば他社データも活用しています。場合によっては、製薬会社が保有するデータも対象になります。

データは、様々な種類を掛け合わせれば掛け合わせるほど、多様な価値を生み出すという性質を持っています。ですので、自社データのみにとらわれず、「他に使えるデータはないだろうか」という柔軟な視点でサービス開発を進めているのが特徴ですね。

また、活用しているのはデータだけにとどまりません。自社が持つアセットも活用しています。JMDCには、RWDの分析で培った知見やナレッジが多く蓄積されていますが、そこにはデータ分析のオペレーションのような組織づくりや業務遂行のノウハウなども含まれます。こうしたアセットを有効活用し、データ分析の部署を新設したい製薬企業に向けて、組織の構築やオペレーションのコンサルティングを行っています。

さらに、製薬会社の中で関わる部署が広がっているのも特徴です。既存の医療データや解析ツールをご提供する場合、主に分析を行う部署であるマーケットリサーチ部門やメディカルアフェアーズ部門などがメインになります。一方、新規サービスでは、営業企画、マーケティング、開発など様々な部署と関わらせていただいています。

 

治験にかかる時間を効率化し、コストを大幅削減へ

――クライアントの製薬会社で進めている取り組みについて詳しく教えてください。

まずは、臨床試験のプロセスを効率化するサポートについてお伝えしたいと思います。

製薬会社が実施する臨床試験は、健康な人たちや患者さんに薬を使用してもらい、効果や安全性、治療法を調べる試験で、治験とも呼ばれます。治験という言葉を知っている方は多いでしょう。製薬会社は、治験の結果を厚生労働省に申請し、医薬品として承認されて初めて、患者さんに使われるようになります。

国内の製薬企業では、この臨床試験を年間200~300件ほど実施しています。臨床試験は、通常3~7年もの長い期間をかけて行うのですが、全体の8割ほどがスケジュール通りに進まず、かなり遅延しているのが現状です。特に被験者を集めるのに苦労していて、3~6ヶ月で集める予定が実際には1~2年近くかかってしまうことも。

臨床試験では、1ヶ月あたり数千万円のコストがかかるため、新薬のリリースが1~2年遅れれば、その分、数億円のコストが余計にかかってしまいます。非常に大きな無駄が生じてしまっているのです。

また、1ヶ月でも早く新薬が使えるようになれば、一人でも多くの患者さんが新薬のベネフィットを得ることができると言えるでしょう。

 

――臨床試験の現状は理解できました。実際どのように効率化しているのでしょうか?

臨床試験では、対象となる患者1000人ほどに治験を実施する必要があり、20くらいの病院を選定して実施します。製薬企業側で病院をピックアップして、医師に薬の対象となる患者数をヒアリングしていくのですが、どうしても実際の数とは異なってしまう場合が出てきます。「100人いると聞いていたのに、ふたを開けてみたら2人にしか協力してもらえなかった」なんてこともざらに起こるのですね。

一方、JMDCが保有する1400万人規模のレセプトデータを分析すれば、「どこにどんな患者が何名いるのか」を正確に把握することが可能です。私たちは、このデータを活用し、対象の患者数を把握し、臨床試験を実施する病院をスムーズに選定できるようご支援しています。

また、製薬会社は、臨床試験を受ける被験者が足りないときは、広告を出して募集をかけています。Web広告や新聞の折り込みなどで呼びかけているのですが、そもそもターゲットとなる被験者がどこに多いのか把握していないと、広告の効果が薄れてしまいます。

こうした場合にも、レセプトデータの活用が奏功します。データから対象患者がどの地域に多いのか傾向を把握し、その地域に向けて広告を出すことで、被験者を効率的に集められるようにしているのです。

ここ数年、希少疾患という患者数が少ない疾患での新薬開発が増えており、全国から患者を探すのに非常に苦労しているケースを聞きます。このような場合、当サービスに対して大きな関心を示していただいていますね。

 

RWDをベースに薬の化合物を的確に評価する

――他の取り組みについてもぜひ伺いたいです。

導入候補パイプラインの評価という薬を作るプロセスの一部でも、データを活かしたサポートをしています。

パイプラインというのは、医薬品を作る候補となる化合物を指しています。化合物は、天然素材から抽出したり、化学合成やバイオテクノロジーなどの方法で、長期間の研究を経て作られた物質です。

昨今、製薬企業では、ある程度治験の進んだ化合物を他の企業から購入し、薬を作るケースが増えています。治験の成功確率は非常に低いので、治験が進んだものを買って作った方が効率的だと考えているためです。

ものによりますが、化合物は数億から数百億円と大きな資金がかかります。ですので、本当にその価格に見合っているものなのか評価することが重要になります。

ただ、そのパイプライン(導入候補の化合物)がどのくらい良いものなのかを判断するのは、一筋縄ではいきません。化合物の評価においても、製薬企業では医師にアンケートを取ったり、ヒアリングをして判断するのが一般的で、定性的なデータに偏りがちです。

そこで、我々のサービスでは、RWDを用いて、導入候補のパイプラインをより客観的かつ効果的に評価できるようにしています

 

――JMDCのデータを活用することで、どんな評価を実施できるのでしょうか?

JMDCのレセプトデータから、パイプラインの事業性評価につながる分析やシミュレーションを実施しています。たとえば、化合物の対象となる患者の絶対数を把握したり、既存の治療方法を理解することで、新規の化合物がどのくらいシェアを取れるかシミュレーションしたり。

他には、対象の疾患を治療するのにどのくらい医療費がかかるのかも分かるため、新規の化合物がいくらくらいの価格(薬価)になるかシミュレーションをしています。こうしたデータ活用を通して、化合物の事業ポテンシャルを総合的に評価しているのです。

最近では、自社データ以外に他社のパイプラインデータベースを掛け合わせて、さらに精度の高い評価を実現できるようにしています。

このパイプラインデータベースは、ありとあらゆる疾患で、どんな化合物がどのくらいあるのか、どんな臨床試験がどのフェーズまで動いているのか、将来、薬が市場に出る可能性はどのくらいあるのかなど、国内だけでなく世界中の情報が分かるデータです。

このデータベースを活用し「対象の化合物は、いつ頃薬剤になるのか」「競合となる薬はどのくらい出てくるのか」といった視点での評価基準を新たに取り入れています。

 

――こうした新しいサービスには、どんなメンバーが関わっているのでしょうか?

外資系戦略コンサルファーム出身や、製薬系企業の役員出身など、多種多様なメンバーが経験や知見を活かし活躍しています。一人ひとりが、それぞれの課題意識や興味のあるテーマに合わせて、サービスの開発から実行までリードして進めています。

組織としては、2021年4月に専門部署を立ち上げて製薬本部とは別で活動してきたのですが、2022年度からは製薬本部内のコンサルティング部として新たなスタートを切りました。メンバーの活躍もあって、今や数億円の事業へと成長しつつあり、製薬本部では従来のデータ販売からコンサルティングサービスの比重を増やしていく方向へ舵を切りました。

この動きは、製薬領域だけでなく保険領域の事業にも波及しています。コンサル型サービスなどの新規事業部門が新たに立ち上がり、新たな挑戦が始まっています。

 

遺伝子データなど自社にないRWDを集め、“掛け算”を強化する

――今後、どんなことにチャレンジしていくのでしょうか?

先ほどもお話した通り、データは掛け合われば掛け合わせるほど価値が出るものなので、様々な種類のRWDを集めていきたいと考えています。

製薬領域でいうと、レセプトデータは、病名や処方薬、受診した病院などは分かるのですが、薬を処方した結果どうなったかまではつかめません。熱が下がった、血液検査が改善したなどの結果(「アウトカム」のデータと言います)まで把握できると、さらなる価値を生み出すことができるでしょう。

また、がん治療などでは遺伝子の情報が重要度を増してきています。ある遺伝子の変異がある人にしか使えない薬があるなど、遺伝子と薬は切っても切れない関係になりつつあります。こうした遺伝子データについても、他社と連携して集めていきたいですね。

JMDCのグループ会社と連携した、新規事業・サービスの立ち上げも、どんどん進めていく予定です。現役医師が立ち上げた医療系スタートアップflixyのWeb問診「メルプ」と連携したマーケティングサービスなどすでに動き始めた例もあります。現在、コンサル部メンバーが各グループ会社と連携して、様々な構想を検討しているところです。

JMDCには、未知なる可能性が広がっており、チャンスがいくらでも転がっています。今回お伝えしたような事業を立ち上げてリードしていくポジションに挑戦したい方に、お任せしたい仕事はまだまだたくさんあります。

また、弊社は事業として順調に急成長をしているだけでなく、社会的課題を「楽しく」解決していきたいメンバーが多く、非常にチームワークにも優れた会社でもあります。企業のビジョンやミッションを重視している方、それと同じくらい一緒に働く人たちも大事だと考えている方は、ぜひ一度弊社のメンバーとお話いただければと思います。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。
もし少しでも弊社にご興味をお持ちいただけましたら、こちらの採用ピッチ資料に詳しいことが記載してありますので、ぜひ一度ご覧ください。