段ボールいっぱいに詰まった紙レセプトに触れて感じた社会的意義

ヘルスビッグデータとICTを活用し、ヘルスケア領域で幅広い事業を展開するJMDCは、これまでに多くの新規事業を成功させてきました。その立役者の1人が、2009年からJMDCを支えている、執行役員 兼 データシステム推進部 データマネージャーの久野さんです。久野さんにヘルスビッグデータを扱う面白さや、データによる社会貢献についてお話を伺いました。

 

<プロフィール>
久野 芳之(くの よしゆき)株式会社JMDC 執行役員 兼 データシステム推進部 データマネージャー
2009年よりJMDCに参画し、データ標準化、新規事業開発を経て、保険会社向け事業を担当。ヘルスビッグデータを活用したリスク予測モデル構築や個人の行動変容サービス開発等、新規プロダクト開発に従事し、2021年よりデータシステム推進部 データマネージャーを兼任。2023年より現職。

 

新しいシグナルを検知でき、数字に直結するのがデータの面白さ

――はじめに、久野さんのご経歴を教えてください。

不動産会社に新卒で入社し、10年ほど働いていました。営業の仕事からはじまり、バックオフィスの責任者を務めた後、営業統括と顧客管理の仕事をしていました。顧客管理の仕事ではデータベース開発の立ち上げから携わり、そのなかでデータの面白さに気がついたんです。未経験からデータベースの仕事に関わるようになり、試行錯誤をしながらチャレンジしていました。

 

――データの面白さとは、具体的にどのようなことでしょうか。

顧客データは、多次元なんですよね。資産や収入の状況、営業のコンタクト頻度、家族構成やライフイベントなど、さまざまな軸でデータを管理する必要があります。こうしたデータを組み合わせることで、お客さまの新たなニーズを発見できることがあります。データを上手く可視化することで、新しいシグナルを検知でき、それが数字に直結するため、非常に面白く感じました。

 

――その後、JMDCに転職をしようと考えたのは、どうしてでしょうか。

データベースを扱うプロジェクトが2年ほどで終了し、データに関わる機会が少なくなってきたんです。データを扱う面白さを忘れられず、データに関する仕事をしたいと考え、転職活動をはじめました。データベースの構築支援をするSIerや、新規事業でデータ分析を必要としている企業などを転職先の候補にしていましたね。

JMDCは、「医療」という深いデータを保有しており、それを販売するビジネスモデルに関心を持ちました。医療分野は未経験でしたが、データを扱う経験はあったため、医療ドメインという社会貢献性の高いビジネスで、何かしらの貢献をしたいと考えジョインを決めました。

 

紙のレセプトに触れて感じた重み

――JMDCに入社後、どのようなお仕事をされてきたのでしょうか。

現在は98%のレセプトが電子に切り替わっていますが、私がJMDCに入社した2009年当時は、日本のレセプトの約6割が紙ベースでの運用でした。当時JMDCがお預かりした紙レセプトは、OCRで読み取ってデータ化するということをしていたのですが、最初はその仕事に携わりました。「データを作る仕事」です。

ダンボールいっぱいに入っているレセプトを、一つひとつホチキスを外しOCRに読み取る作業をするのですが、必ずしも全てのレセプトがホチキス留めされているというわけではありません。例えば重篤な状態の患者さんや、入院期間の長い患者さんのレセプトがホチキス留めされていて、入院歴や治療内容、病名などがたくさん書かれているわけです。紙レセプトの状態で生のデータに触れることで、重篤な状態で入院することが、現実としてどのような状態なのか身につまされて感じる機会となりました。

1枚の紙レセプトからとてつもない重みを感じ、ヘルスビッグデータを扱うことは非常に責任を伴う仕事だと感じ、ヘルスケアドメインで働く意義を考えるきっかけになりましたね。

ヘルスビッグデータとしてアプローチすると、病気の発生確率などの数字でしか語られなくなってしまいます。だからこそ、「n=1」の持つ重みを感じられたことは、いまでもデータを扱う仕事をするうえで大事なポイントになっています。

 

データに付加価値をつける、新規事業へのチャレンジ

――その後に担当されたお仕事についても教えてください。

先述の通り、入社してしばらくは「データを作る仕事」をしていましたが、そこから徐々に「データを使う仕事」にシフトしていきました。データ自体は形がないため、どのように活用するかによって付加価値をつけていきます。そのなかで、保険会社との仕事に可能性を感じました。保険商品は、病気の発生率や入院の割合などを数字で捉えることにより、妥当な保険料を算出して商品を作っていくのですが、基本的には統計データをもとに作られます。この仕組みに着目し、ここにJMDCのデータを活用できないかと考えました。

そしてこのアイディアがはまり、いくつかの先進的な保険を作ることができました。

下記は一例です。

  • 通院保障型保険
  • 抗がん剤治療を保障する保険
  • 就業不能型保険
  • 健康増進型保険

例えば通院保障型保険の開発では、JMDCのレセプトデータから、退院後の治療にかかる通院日数や通院継続率などを算出して、これまでの統計データでは作ることができなかった保険を新しく開発しました。この商品が生まれる以前は、入院したら日額が保証される保険しかなかったので、当時としては先進的な保険商品の1つだったと思います。これらの商品を開発することで、疾病や入院などの医療観点ではない、新たな補償ニーズを開拓することができました。

 

▼インシュアランス事業部の責任者である本間さんの記事に、当社が保険業界向けに提供するソリューションについて語っております。ぜひご覧ください。

blog.jmdc.co.jp

 

――健康増進型保険の開発プロジェクトについて詳しく教えてください。

充実したヘルスビッグデータがあるため、保険を世の中の健康に役立てる意味で使えないかというプロジェクトです。これまでは性別と年齢で保険料が決まっていましたが、データを活用して被保険者の健康度で保険料を算出する仕組みを作りました。健康な方は安く、不健康な方でもお金はかかりますが、しっかりと保険に入れる仕組みを実現しています。

ヘルスビッグデータを予測モデルとして加工することで「健康年齢」という数値を算出し、スコアリングに合わせて保険料を算出しています。健康年齢をお客さまに知ってもらい、行動変容を促すサービスです。

 

▼健康増進サービスに関するプレスリリースもございますので、ぜひご覧ください。

www.jmdc.co.jp

 

――この健康年齢に関するプロジェクトが、2017年に開催された「InsTechオープンイノベーションビジネスコンテスト」において最優秀賞を受賞していますね。

受賞した「健康年齢とかざしOCRを活用した健康増進サービス」は、OCR技術を活用して健康診断結果をデータ化し、健康度を分かりやすく示すサービスで、下記のような仕組みとなっています。

  1. スマートフォンのカメラを使い、アプリケーションで健康診断結果を読み取る
  2. 読み取った健康診断結果から健康年齢を算出し、健康タイプを判定

「健康診断結果はさまざまな帳票パターンがあり、データ化が困難である」という課題に対し、健康診断結果の様式を問わずにOCR解析ができる、という技術に関してもご評価をいただきました。

私たちのやってきたことが先進的な取り組みとして認められたことは、非常に意義のあることだと感じています。受賞後、大手保険会社のアプリケーションにその機能が実装され、様々な取材にも取り上げられました。アプリケーションとして10万人以上の方が使うサービスとして実装されたため、大きなインパクトを残せたのではないでしょうか。

その後も同じようにアプリケーションに実装をしていただいたお客様もいらっしゃったため、ビジネスとしても効果がありました。この受賞は、大きなターニングポイントだったと思います。

 

▼InsTechオープンイノベーションビジネスコンテストの最優秀賞受賞に関するプレスリリースはこちらにございますので、ぜひご覧ください。

www.jmdc.co.jp

 

――保険会社向けの新規事業に成功してきた要因は何だと思われますか。

ヘルスビッグデータと保険の仕組みは親和性が高く、データの活用価値があります。新しく保険商品を出す際は金融庁の認可を受ける必要があり、エビデンスとしてデータ分析結果を提供しなければならないからです。そのエビデンスとなるデータを私たちは保有し、提供しています。データの集計からお手伝いすることもありますし、保険会社の方と一緒に議論しながら作るケースもあります。こうしたケースに対応できたことが、保険会社向けの新規事業がうまくいった要因の1つだと考えます。

 

――保険会社との新規事業で感じた、データを活用することの面白さを教えてください。

例えば、ある特定の保障のニーズがあったとしても、それを発生率としてどのように捉えていいのか分からないことがあります。そのときにレセプトデータや健康診断の背景を理解し、発生率の算出できる方法を保険会社の方々と議論しながら作っていきます。これは知的好奇心を刺激する、非常にチャレンジングな仕事で面白いですね。

私たちのデータをもとに開発された保険商品が多く売れれば売れるほど、世の中にインパクトを残せます。保険会社への貢献という意味もありますし、これまで保障されていなかったことが保障されるようになれば、生活者の方にとっても意義のあることです。なぜなら、保障によって助かる方もたくさんいらっしゃるからです。

 

――新規事業を進めるうえで意識していることを教えてください。

しっかりとニーズに向き合うことです。世の中にはあるべき理想に対して、うまくいっていない現実があります。それをデータでうまく可視化するなど、理想に導くために何ができるのかを考え尽くすことが重要です。こうすることで、新しいサービスの芽が生まれると思っています。ニーズにふんわりと触れるだけでは、解決策は生まれません。大学の先生や統計の専門家など、外部の専門家の方と議論することで最新の研究や統計技術を織り込み、新しいサービスを作ることを意識しています。

また、学び続けることも大事です。私自身、月に2回ほど異業種のオープンイノベーションイベントに参加しています。さまざまな業種の方と議論して、情報交換しています。このように、社内だけではなく社外の方と接することは大事です。

データは、世の中の状況を表すものです。データから変化を捉え、変化に対してどのような打ち手があるのかを考え続けています。

 

高齢化という課題を解決できる社会的意義がある

――JMDCでは、民間企業だけではなく、自治体とのプロジェクトも行なっています。民間企業と自治体と仕事をしていて感じる違いについて教えてください。

自治体が抱えている課題のひとつに、社会課題でもある「高齢化」があります。高齢者の方々に対して、自治体が保険者として活動されているため、よりシビアな対応が必要です。このようなアプローチができることは、社会的意義があります。

民間企業の健康保険組合では、若い方がターゲットになることが多いです。一方、自治体の場合は高齢者の方がターゲットになるため、介護や認知症、寝たきりなどの重篤な状態をどう防いでいくのかが重要な課題です。データの活用価値が、より深いといえます。

一例として、自治体とのプロジェクトで、見守りを行うサービスを試験的に導入しました。その地域には大きな病院が1つしかなく、通院するにも時間がかかってしまうことが課題でした。そこでApple WatchとiPhoneを配り、健康管理アプリと連携することにより歩行記録や心拍数のデータを基に見守りをするという取り組みです。また当社では、健康状態の"見える化"で生活習慣を改善する「Pep Up」というPHRサービスの運営をしています。Pep Upと重症化予測により介入をする取り組みも進んでおり、ICTとデータを活用することで、予防を積極的に進める動きも広がりました。こうした自治体のお手伝いをする機会も増えてきています。

 

チャレンジしやすい環境で、データの価値を世の中に実装する

――最後に、現在チャレンジしていることやこれからチャレンジしたいことについて教えてください。

ヘルスケアの領域には、大きな可能性があると思っています。日本は国民皆保険制度のため、フラットに治療を受けることができる世界的に見ても珍しい仕組みです。世界と比べて、高齢化社会をいち早く迎えている上に、皆保険のためデータもしっかりと集まっています。これは非常に貴重なデータです。

今後さまざまな国で高齢化社会という課題が、日本と同じように起こっていきます。日本のデータを活かし、海外に向けて予防サービスを立ち上げられればと思い、チャレンジを始めているところです。現在はASEANを中心に、状況やニーズの調査をおこなっています。

また国内でも引き続き、いろいろな形でデータの価値を世の中に実装していければと考えています。現在JMDCとして価値を提供できているのは、製薬業界や保険業界、健康保険組合・自治体などです。こうした業界以外にも、ヘルスビッグデータのニーズは幅広くあると考えており、他の業界にもチャレンジしていきたいと考えています。たとえば、小売業界や食品業界などとも親和性が高いと思います。

JMDCの成長に伴い、専門家も増えました。いろいろな方がジョインすることで、組織として強くなっています。チャレンジできる下地ができているため、一緒にサービス作りを推進できたらうれしいです。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。
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