医療ビッグデータを持つJMDCでは、製薬事業をはじめ、保険業界向け事業をインシュアランス事業として展開しています。今回はインシュアランス事業の責任者であるCOO兼執行役員の本間さんに、インシュアランス事業の歴史や保険業界におけるJMDCのデータの価値について伺いました。
<プロフィール>
本間 信夫(ほんま のぶお) 株式会社JMDC COO兼執行役員
電通グループを経て、ボストンコンサルティンググループに入社。プリンシパルかつ保険・金融プラクティスのコアメンバーとして、保険会社/製薬会社/医療機関などに対する幅広いプロジェクトを経験。2020年にJMDCに参画し、2022年より現職。
インシュアランス事業が立ち上がった背景
−−本間さんがJMDCに入社するまでのご経歴を教えてください。
新卒入社したのが電通グループで、マーケティングやコンサルティングをしていました。後にボストンコンサルティンググループに転職し、在籍した7年間のうち多くの期間で、保険業界のプロジェクトに携わっていました。当時は保険業界がデジタル化に向けて大きく動き出したころです。様々な経営アジェンダについて、保険会社が抱える悩みや課題に向き合ってきました。その経験もあり、2020年からJMDCに参画しています。
−−ありがとうございます。本間さんはインシュアランス事業の責任者を担っていますが、当事業が立ち上がった背景を教えていただけますか。
事業の立ち上げは2009年です。当時JMDCは、主に製薬業界向けにデータビジネスをしていました。このデータビジネスを他領域でも活かせないかと考え、様々な業界で取り組みをしたところ、生命保険業界と健康診断結果・レセプトデータの相性が非常に良く、初期顧客を獲得することができ、そこから少しずつ保険業界の顧客が拡大していきました。
JMDCのレセプトデータは健康な人をはじめ、健康リスクがある人、病気や事故にあった人まで幅広く分析ができるため、例えばどのような健康状態の人が、どの疾患にかかり、どれくらい入院するかなどを知ることができ、生命保険会社の関心事と親和性があったためデータ活用の動きが活発化したのです。
人口減少や少子高齢化の背景によって生命保険業界のマーケットが年々変化するなかで、2020年くらいから我々の事業はさらに軌道に乗りました。
−−最初はどのようなサービスを提供していたのでしょうか。
最初は2つのサービスを提供していました。
1つ目は生命保険の商品開発に関するサービスです。弊社のデータを活用し、傷病の発生率を精緻に把握することで新商品の開発につなげていました。
2つ目は「辞書」と呼んでいるもので、傷病の記載のバラつきを統一化できるソリューションです。レセプトは記載する医師により、同じ傷病でも記載する単語にバラつきがあり、「辞書」を用いて記載を統一化することで患者数や発生率を正しく把握することができます。
どちらも現在のインシュアランス事業を支えるサービスとなっています。
▼保険者データの取込みからデータベース化までの流れは以下ブログ記事にも記載がありますので、ぜひご覧ください。
−−JMDCが保険業界でのデータ活用で圧倒的な強みを持っている理由はなぜでしょうか。
JMDCが20年以上にわたり集め続けてきた大量のレセプトデータと、それを綺麗にするクレンジングのノウハウがあり、データの量・質ともに強みとなっています。また、こうしたデータを単に提供するだけではなく、データに付加価値を付けるケイパビリティもあることだと考えます(詳しくは後述)。
保険業界が抱える課題をJMDCのアセットで解決する
−−保険業界にはどのような課題があるのでしょうか。
日本が直面している人口減少に伴う少子高齢化が、国内の保険業界にも影響を及ぼしています。従来は保険加入者の中心は若年層でしたが、若年層の人口は減少していくため手なりでは保険マーケットは縮小していくことが想定されます。
これまでの生命保険業界は一般的な死亡保険やがん保険など、多くの人の共通のニーズに対してやや汎用的な商品を投入してきました。今後はより保障を細分化したり、引受範囲を拡大したり、個別のニーズに対してきめ細かく対応できるように商品拡充することで、取り込めるマーケットを最大化する動きが広がっています。このような流れと併せて、保険会社の付加価値としてヘルスケアサービスに乗り出そうと考える保険会社が増えています。そしてヘルスケアサービスを開発しようとすると、ヘルスケアに関するデータが必要不可欠になるのです。
−−保険会社がデータを活用する上で課題などはあるのでしょうか。
保険会社がデータ活用をする上での課題は3つあります。
1つ目はデータ不足です。例えば大手生命保険会社であれば、数百万人を超える契約者がいて大量のデータを保有しているように見えます。しかしこのデータは保険加入時の申込情報や、保険請求時の請求情報、一部商品加入者が提出する健康診断結果など断片的な情報だけになります。つまり契約者数が多くても、加入時から保険請求時までの間を埋めるデータはほとんど持っていないのです。
2つ目はデータを扱う体制です。データを入手しても活用しきれないこともあります。保険会社には数理的な分析の専門家は多く在籍するのですが、データサイエンティストは多くありません。そのためデータをAIや機械学習で活用できる体制ができていないことが多いのです。
そして3つ目は新規サービスを開発する体制が整っていないことです。2つ目の課題とも関連しますが、データを活用できるデータサイエンティストや、新商品の開発を推進するプロダクトマネージャー、モノづくりをするエンジニアがいなかったり、スピード感を持って柔軟にサービス開発できる態勢が整っていないなど、サービスを開発する体制が整備されていないことが課題にあります。
これらの課題は世の中でDXが進むにつれて変化しています。私がJMDCにいる間にも、保険業界でのデータ利活用やデータリテラシー向上がかなり進みました。そこにJMDCの存在意義があると思っています。
−−そのような保険業界や保険会社の課題に対して、JMDCが発揮できる強みを教えてください。
当社が保険業界や保険会社に活かせる強みは2つあります。
1つ目は先ほどもお伝えしたように、データの量・質がともに圧倒的であること。特に生命保険会社からニーズの高いヘルスケアデータを保有しています。具体的には健康保険組合様が持つレセプトデータがあり、どのような健康状態の人が、何年後に、どの程度の割合で、どの病気にかかり、何日入院または通院して、どれくらい医療費がかかり、どのくらいの再発率で、どの別の病気にかかり……など、とても詳細にわかります。ここまで詳細に分析できるのは、約1000万人規模の医療ビッグデータを持つ弊社ならではの強みです。
2つ目の強みは、データに付加価値を与える人材が部内に揃っていることです。データサイエンティスト、プロダクトマネージャー、エンジニア、コンサルタントなど様々なメンバーが在籍しています。保険会社やWeb系企業・SI、コンサルティングファーム等、バックグラウンドも幅広くまた保険業界の知見がある者もいるため、それぞれが得意分野を活かしながらチームで技術や付加価値をソリューション提供しています。データサイエンスによるモデルづくりやプロダクト開発、データを活用したコンサルティング等をソリューションとして提供しており、保険会社に足りない機能を補うことができるのです。また、社内にはデータサイエンティストが20人ほど在籍していて、他にはない規模のデータ分析チームがあります。
ーーインシュアランス本部にはプロダクトマネージャーやエンジニアなどの開発チームも在籍するのですね。保険会社でデータを扱う体制や、サービスを開発する体制が整っていないことが当事業部内に開発チームがある理由だと思っていますが、それ以外にも理由などありますか。
インシュアランス本部内に開発チームがある理由は、保険会社等にデータを活かした幅広いソリューションを提供する上で、チーム一体となってスピード感のあるプロダクト開発やソリューション提供を実現するためです。
プロダクトやプロジェクトごとに、本部内でエンジニア/データサイエンティスト/コンサルタント/デザイナーなど複数職種の混成チームを組成してフレキシブルに推進していくことが日常化しています。JMDC全社でのエンジニア組織も別にありますが、あえて本部内にエンジニア組織を持つことでフットワークの軽い事業推進を実現しています。
ーーなるほど。スピード感のあるソリューション提供を実現するために、開発チームが部内にあるのですね。インシュアランス本部で開発メンバーが働く面白さなどもあれば教えてください。
インシュアランス本部で開発メンバーが働く面白さは、優秀なメンバーとチームで働けることではないでしょうか。保険会社にソリューション提供をする際はクライアントのニーズを把握するために保険ビジネスに詳しい人と協議をしますし、医療職や管理栄養士の監修が入ることもあります。またアプリのUI/UX向上のためにデザイナーも加わりますし、データ活用の部分ではデータサイエンティストなどの専門家と組むこともあります。多岐にわたる優秀なメンバーとチームで開発ができることが醍醐味になるのではないでしょうか。
また開発メンバーも企画フェーズからアイディアを出せること、そしてそのアイディアを形にして、多くのユーザーにサービスとして提供できることもインシュアランス本部で働く面白さだと思います。
▼インシュアランス本部で活躍するPdMとPMの対談記事です。
プロダクトづくりの面白さや業務内容等についても語っているので、ぜひご覧ください。
医療ビッグデータが生命保険の付加価値を創る
−−JMDCが提供するソリューションは具体的にどのようなものなのでしょうか。
生命保険の商品開発に弊社のデータを活かすことがあります。これは商品数理と呼ばれる領域で、保険料と保険金、つまり保険会社がいくらお預かりし、いくらお支払いするかというバランスを精緻化するロジックにデータを使います。
例えば健康増進型保険と呼ばれる「健康なら保険料が下がる、またはキャッシュバックがある保険商品」は弊社のデータを活用して設計されています。健康診断のBMI、中性脂肪、血糖値などから、将来の入院発生予測率が割り出せます。もし入院の可能性が低い方であれば、保険会社としてもリスクが低くなり保険料を安くしてもいいとなりますよね。
細かい話ですが、保険会社の持つデータは保険を引き受けた契約者に限定されたデータであり、かつ病気や事故が起きたあとのデータのため、世の中の変化を捉えるのに時間がかかります。しかしJMDCのレセプトデータは、リアルタイムで世の中の変化を素早く捉えることができます。例えば新薬が承認されたことで入院日数がどれほど短縮されたか、新しい保険適用により患者がどれほど増減したのかなどです。幅広い健康状態の人の最新のヘルスケア状況を把握できる弊社のデータは、生命保険業界において大きな価値だと思っています。
−−その他、実際のヘルスケアサービスにはどのようなものがあるのでしょうか。
大手生命保険会社を中心に導入が広がっている、健診結果に基づく健康リスクレポートがあります。健康診断結果をスマホで撮影するとOCRで内容を読み取り、健康状態についてのレポートが表示されるサービスです。
具体的には、実年齢43歳の方が試した場合の一例として健康年齢40歳、健康タイプ「肝臓弱り気味」などと出てきます。他にもがんや脳卒中のリスクについて表示もされます。健康年齢®はJMDCが商標を取っている健康状態をわかりやすく理解するための指標で、医療ビッグデータからシミュレーションして割り出しています。
ただリスクを表示するだけではユーザーを怖がらせてしまうので「肝臓の数値は○○を目標にしましょう」「1日20分、歩幅を広げて早歩きしましょう」など、食事や運動習慣についてのアドバイスも提示します。もし深刻なレベルなら受診を推奨するなど、踏み込んだアドバイスをすることもあります。会社ごとに内容や表現は異なりますが、ユーザーが自分の健康状態を把握し、より健康に近づくための行動変容を促すようにしているのです。
保険を通じてヘルスケア業界に貢献する
−−今後、保険業界はテクノロジーを活用してどのように変化すると思いますか?
保険業界が向かう方向性としては、リスクに「備える」に加え「軽減する」まで含めたリスクソリューションに拡大し、リスクコントロールに力を入れることになるでしょう。生命保険会社であれば健康管理、健康増進、重症化予防、再発防止、早期治療などのヘルスケアです。こうした取り組みが進めば保険料と保険金のバランスを最適化することにつながりますし、なによりもリスクを避けられれば保険契約者にとって大きなメリットになります。
そのため保険業界がヘルスケアサービスを強化することが、今後の大きな方向性となると考えています。
その中で我々は、データを活用したヘルスケアサービスの開発から運営までを伴走することが求められているのです。
−−最後に今後の展望について教えていただけますでしょうか。
会社としては収益も大事ですが、その先の社会貢献も意識しています。ヘルスケアデータをお預かりしてビジネスをする事業者としての責任もあるからです。そのためJMDCが提供しているサービスを通じて、日本のヘルスケア事情を改善していければと考えています。
JMDCは国内トップクラスのデータを持っているだけではなく、データ利活用のケイパビリティもありますが、これまで生活者との接点は契約している健康保険組合の組合員に限られてきました。そこで保険会社を通じ、その先にいる保険契約者や生活者に新しいヘルスケアの価値を届けていきたいと考えています。こうした想いに共感していただける方がいれば、ぜひ仲間に加わってほしいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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